No. 01
近江屋事件の夜——指揮官の沈黙
1867年11月15日夕刻。京都・近江屋の2階で、坂本龍馬と中岡慎太郎が談笑している。
階下から男たちが上がってきた。先頭の者が「十津川郷士(とつかわごうし)と申す」と名乗る。取り次いだ下僕が油断した隙に、男たちは抜刀。数秒の白刃の嵐。
この襲撃を指揮したのが誰か——史料は明確に語らない。部下の今井信郎が後年「自分が実行した」と自供したが、命令者については曖昧なままだった。
只三郎は、この夜どこにいたのか。実行現場にいたのか、後方で指揮していたのか、あるいは別の場所にいたのか。只三郎自身は生涯一度も、近江屋事件について公に語らなかった。
戊辰戦争で若くして戦死したため、維新後の尋問も受けていない。彼の沈黙が、実行指揮官が誰だったかの真相を四百年近く闇に留めている。